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ブログ - 白の香   鈴木翠珠

白の香   鈴木翠珠

カテゴリ : 
ブログ
執筆 : 
八王子支部 2019/7/25 20:20
白の香。今のところそう表現しようがない。それを一際強く感じるのは毎年恒例で参加している十二月の冬季宿泊坐禅会(鎌倉の円覚寺)である。ここで行うことといえば、只管坐禅・作務・経行。吐く息が白く凍てつき、手足の芯はかじかむ。修行中は防寒具も靴下も履いてはならない決まり。芯から凍える寒さを裸足から一身に受け、歯の根が合わず、身震いも止まらなくなる。更け行く時間をただただ己と向き合うだけである。今年を含めると六回程度参加している。何故こんなつらい目に遭いに毎年参加するのだろう。
   最初は寒さとの「闘い」であった。ガチガチと鳴らす歯を必死で抑えようと、懸命に大きな呼吸を繰り返す。しかし、決して止まらなかった。次に、寒さとの「調和」になった。寒さを「寒さ」として受け入れる。ありのままを受け止める。身震いはなくなったわけではないが、最初よりも大分治まった。最後は寒さからの「超越」になりつつある。寒さを越えた先が、あの白の香である。例えば、一晩中雪が降り、静寂な朝を迎えることと似ている。微かに立てる音すらも雪の白さに吸収され、今まで目に慣れた風景が白色の無の世界に一変する。鎌倉の地は都会の喧騒から一切離れた場所。山門を閉じた後は毎日白の香に包まれる。その先にあるのは寒さによって恵みを得た、気高さや勤勉、忍耐強さである。
寒さは生きとし生けるものに味わいを与えてくれる。和菓子作りに欠かせない寒天。冬に作るからこそ質が良くなる。津軽のこぎん刺し。幾何学的なあの美しさは野良作業ができない真冬に女性達によってもともとは作られていた。例を挙げればきりがない。
人生は選択の連続で彩られている。何かを選べば、何かは捨てる。選んだ結末に後悔せず、自律した人生を歩んでいくにあたって、あの白の香が間違いなく今後の糧となるだろう。あの寒さを内包した香ともつかない香に私は今も惹かれ続けている。      翠珠記ス
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