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ブログ - 禅の歴史(9) 「人間禅」の誕生、そして漱石のみた禅とは。  山沢幽渓(横浜支部)

禅の歴史(9) 「人間禅」の誕生、そして漱石のみた禅とは。  山沢幽渓(横浜支部)

カテゴリ : 
ブログ
執筆 : 
八王子支部 2019/4/4 15:38
★耕雲庵立田英山(1893~1979年);東京市本所に生まれる。仙台第二高等学校入学。松島瑞巌寺の盤龍老師に参禅。大正3年、見性。大正5年両忘庵釈宗活老師に入門。大正6年「英山」の道号を授与される。大正8年、東京帝国大学を卒業、大学院で「脊椎動物の脳の発生」を研究。大正10年、中央大学予科教授に就任。大正12年、30歳で大事了畢、「耕雲庵」の庵号を授与される。昭和3年、35歳で師家分上。この後戦後まで両忘庵老師の名代として全国を巡錫。昭和22年「両忘禅協会」が閉鎖されたが、直ちに「人間禅教団」を発足させ、24年初代総裁に就任。ここに在家禅者が嗣法し伝法する歴史上全く新しい在家禅が誕生した。総裁退任は昭和44年、就任以降621人が参じ、支部は全国十一に及んだ。科学者らしい合理を重んじた宗教観、弟子達からは“親爺”と呼ばれる人柄、茶道、作陶、俳句、写真など芸術にも禅者ならではの独特の境地を開いた。86歳帰寂。

「禅の歴史」の終わりに、明治の文豪、夏目漱石が『禅』と関わり、その体験を小説にした『門』から、文豪の見た坐禅を引用する。
★夏目漱石(1867~1916年);『門』は明治43年(1910年)3月1日から6月12日まで朝日新聞に連載された。前年に、「それから」を連載したが、さらにその前年の「三四郎」からと続く3部作。
主人公の宗助は、友人から紹介状を貰って、鎌倉の円覚寺の釈宜道{筆者注:宗活老師と思われる}を尋ねる。
「山門を入ると、左右に大きな杉の木があって、高く空を遮っているために、路が急に暗くなった。その陰気な空気に触れた時、宗助は世の中と寺の中との区別を急に覚った、静かな境内の入口に立った彼は、始めて風邪を意識する場合に似た一種の寒気を催した。」中略
「老師{宗演老師か?}というのは五十格好に見えた。赤黒い光沢のある顔をしていた。その皮膚も筋肉も悉くしまって、何処にも怠りのないところが、銅像のもたらす印象を、宗助の胸に彫りつけた。ただ唇があまり厚過る、其処に幾分の弛みが見えた。その代わり彼の眼には、普通の人間に到底見るべからざる一種の精彩が閃いた。宗助が始めてその視線に接した時は、暗中に卒然として白刃を見る思いがあった。『まあ何から入っても同じであるが』と老師は宗助に向かって言った。『父母未生以前本来の面目は何だか、それを一つ考えてみたらよかろう』  宗助には父母未生以前という意味が良く分からなったが、何しろ自分というものは畢竟何物だか、その本体を捕まえてみろと云う意味だろうと判断した。」中略 「同時に彼は勤めを休んでわざわざ此処まで来た男であった。紹介状を書いてくれた人、万事に気をつけてくれる宜道に対しても、あまりに軽率な振舞は出来なかった。彼は先ず現在の自分が許す限りの勇気を提さげて、公案に向かおうと決心した。・・・彼は悟という美名に欺かれて、彼の平生に似合わぬ冒険を試してみようと企てたのである。そうして、もしこの冒険に成功すれば、今の不安な不定な弱々しい自分を救う事が出来はしまいかと、はかない望を抱いたのである。」 中略 「宗助はこの間の公案に対して、自分だけの解答は準備していた。けれども、それは甚だ覚束ない薄手のものに過ぎなかった。室中に入る以上は、何か見解を呈しない訳に行かないので、已むを得ず納まらないところを、わざと納まった様に取り繕った、その場限りの挨拶であった。彼はこの心細い解答で、僥倖にも難関を透過してみたいなどとは、夢にも思い設けなかった。・・・宗助は人のする如くに鐘を打った。しかも打ちながら、自分は人並みにこの鐘を橦木で敲くべき権能がないのを知っていた。それを人並みに鳴らしてみる猿の如き己を深く嫌悪した。・・・室の中はただ薄暗い灯に照らされていた。・・・この静かな判然しない燈火の力で、宗助は自分を去る四五尺の正面に、宜道の所謂老師なるものを認めた。・・・この面前に気力なく坐った宗助の、口にした言葉はただ一句で尽きた。『もっと、ぎろりとした所を持って来なければ駄目だ』と忽ち言われた。『その位な事は少し学問をしたものなら誰でも云える』宗助は喪家の犬の如く室中を退いた。後ろに鈴を振る音が烈しく響いた。」

完。

参考資料;平凡社・日本のこころ239「禅宗入門」(2016)、NHKブックス35「禅―現代に生きるもの」紀野一義(1997)、講談社学術文庫「禅と日本文化」柳田聖山(1997)、『禅』誌2002~2016(多数)、擇木道場創建100周年記念小冊子、新潮文庫・夏目漱石「門」
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